32、厳実上人
大和の国、虚空蔵巖に住む僧侶であった。
壮年となったとき、両目ともに視力を失った。
その業障を懺悔するために、
わずかに鳩の飾りのついた杖のみを持って、
三年間、高野山に参篭することにした。
一心に目が見えるようになるように祈った。
ある時、先ず社壇に参って、次に大塔を参詣した。
すると、忽然として眼が開いた。
日輪が現れ、ふいに立ち止まって、
両目をぬぐい、四方を見た。
堂舎塔廟が聳え立ち、
山岳林樹は秋霧が縦横にたちこめていた。
神仏のお計らいに涙を流し、
躍り上がって喜んだ。
その後、最期の時を迎えた。
阿弥陀仏の像に向かって、香華を備え、
阿弥陀仏の名号を唱え、
安らかに座っていた。
眼前には悉地がすでに成就していた。
解脱したことに、どうして疑いがあろうか?
注記
高野山の住侶。
もと大和虚空蔵厳寺の僧。
壮年にして失明したので、高野山に登り大師の霊廟に詣でて精祈すること3年、すなわち両眼が見えるようになった。
そこでますます信仰を発こし、勤修怠ることがなかった。
寿および入寂年不明。
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