9、蓮意上人


和州の人である。
俗性は分からない。

早くに故郷を出て、久しくこの寺に住した。
日夜を分かたずに、常に生死の世界を嫌って、
往生のための行を行うことを嫌わなかった。
ただただむせび泣いてばかりいるので、
これを見聞きした者たちは、みな怪しんだ。

三間四面のお堂を建立して、
一丈六尺の千手観音・阿弥陀如来・不動明王などの像を安置した。

毎年、八講を修し、仏法に帰依し、
所々でことあるごとに人々に造仏や写経を勧めた。

そうして長承元年(1132年)秋に、軽い病を得た。
大して苦痛も感じなかったが、五色の糸を阿弥陀仏から自分の手に引いて、
座りながら入滅した。

遺体を棺に納めて安置したあと、残った弟子たちは相談した。
在りし日の修行日記などを見てみよう、と。

すると、「極楽往生ならば、青蓮華一葉がある」と書いてあった。
そこで、本尊・経本などを開いて探してみたところ、
上人の持経で破損したものがあった。
表紙に封がしてあったので、これを開いてみたところ、青蓮華一葉がその中にあっ
た。

その色は妙なる美しさで、
おりしも露を払ってつんだばかりのようで、
その香りは馥郁としていて、
風もないのに自ら薫った。
これこそが仏界の霊瑞で、日常のものではなかった。

たぶん、こういう意味なのであろう。
蓮意上人の懇ろなる不退転の志によって、彼が極楽に迎えられたということを、この
華が現しているのだろう。


注記

1132
高野山の住侶。
大和の人で、若くして高野山に上り、碩徳に拝して行に励んだ。
長承元年9月10日入寂。
殯のあと、衣篋を検分してみると、青蓮華が一葉あり、その形は微妙で美しく、香りは馥郁としていた。


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