4、沙門蓮待(しゃもん・れんたい)

土佐の国の人である。
幼くして父母の家を出て仏門に入り、
成長してからは仁和寺に住み、
叡算(永算)阿闍梨に師事した。
壮年以後、仏道に深く精進して、草庵に居を定め、名を蓮待と改めた。
人は彼を「石蔵上人」と呼んだ。
日夜苦行し、休息するということがなかった。

また金峯山にこもって、塩と穀物を断じた。
身体は枯れて、筋骨はみな露わになった。
諸僧はみな言った。
「ここで蓮待が死んだら、霊地が穢れてしまう。」
そこで相談して、蓮待を追い出そうとしたが、蔵王権現のお告げがあった。
それでまた、蓮待は山に帰ったのであった。

しかし、そうするうちに、その住処を離れ、
遥か高野山に移り住んだ。
数年後、心に「貧家に仕えよう」と発願した。
すぐに離山の思いをあらわすと、
みんなは留めようとしたが、強いて山を降りた。
ただし、最期のときには必ず帰る、と約束したのであった。

その後、蓮待の修行は辛苦を極め、定住するということがなかった。
ついに土佐の国の金剛定寺に至った。

承徳二年(1098年)5月19日、
南海の土佐の地を辞して、高野山に帰ってきた。
そして僧たちにこう言った。
「日ごろ、心神に煩いがあり、寝食も快くない。
 そこで、昔の約束を思い出して帰山したのです。」
ある人が言った。
「極楽や都率(注:弥勒菩薩のいらっしゃるところ)に望みを繋いではどうですか
?」
しかし、蓮待はこう答えた。
「先達の行業は、必ずしも叶うわけではない。
 (悟りの境地に至れば)どこでも浄土なのだから、どこに望みを繋ごうと同じ
ないのだ。」
そして、ただ後世の功徳にあてようと、
法華経一万部を読み奉った。
そしてそれ以上読んでも、その部数は数えなかった。

また、常に門弟を教え諭してこう言った。
「私が死んだらば、棺に納めて葬るなかれ。
 ただ野原に捨て、鳥獣に施すべし。」
ある人が言った。
「もし腐乱した肉体や骨が散乱したら、
 浄地が穢れるのではないか?」
上人は悲しんで言った。
「そうだな、そうだな・・・。」

それで、にわかに高野山を去ろうとした。
同門の者たちが留めようとしたが、首を振り、聞かなかった。
そこで遂に、彼の意に任せて輿で送り出した。

6月7日、上人は自ら頭を剃り、衣を整えた。
ことさらに病気の様子はなかった。
山門を出て、土佐に赴こうとした。
すでに霊地を離れ、遠く人里を去った。
道の途中で、輿をおりて休息し、樹下に衣服を整えた。
西方を向いて、手に定印を結び、次のように唱えた。
「南無三身即一阿弥陀如来。
 南無弘法大師遍照金剛菩薩。」
かくの如く称え、礼拝し、地面に座した。
息はすでに絶えていた。
みなこれを見て、両目の涙をぬぐった。

この時、西天に雲がたなびき、強風が吹いた。
雲上に雷音が轟き、香気が吹き下りたかと思うと、
すぐに天は晴れ、大空に雲が巻き上がった。
蓮待は87歳であった。

その次の明け方、門弟の夢に、空中に金剛曼荼羅があらわれた。
その中の西方の金剛因菩薩のところの月輪中に蓮待上人が座っていて、伽陀を誦えて
言った。
「われら菩提心を発こして、四無量心を修行した。
今、西方に往詣して金剛因位に登る。」
と。



注記

1013-1098


高野山の住侶。
俗姓明らかでない。
一説に丹波の人とも。

灌頂以後は洛北に居した。
高野山でも、庵を結ばずに、石山や谷に居したようだ。


穀断ち・塩断ちについて少々説明しますね。
穀断ちは主に五穀を食べないという生活を送ることです。
五穀には所説ありますが、代表的なのは
米・大麦・小麦・大豆・小豆です。
その代わりに何を食べるのかといえば、
ソバがきのようなものや菜っ葉類です。
要するに、人の手によって育てられたものはダメなんですね。
老荘の思想からきているのではないかと思われます。

だから、最終的には厳格にしていくと、畑の菜っ葉類もダメなので、蕗・アザミなど
山菜類を採取します。
また、海草は昆布以外はダメ。
なぜかというと、海藻類はいつのまにか生じて増えていくので、
えたいが知れない不浄なものと思われていたようで、
キノコも同様な理由からダメです。
よく「木食」と言われる行者さんたちは、この穀断ちをしている方たちのことを言い
ます。
即身仏の修行者たちは身体を枯れさせて腐りにくくするためにも穀断ちを行い、
さらに漆を飲んだりもしたようです。

次に塩断ちですが、これはかなりキツイです。
穀断ちは味噌・しょうゆもダメなので、
塩が唯一の調味料なのですが、
これを断つということは、味ナシのものを食べるものですから、
どんなに沢山の山菜類があっても、味がなければ量は食べられません。
それに塩分というのは、身体にとって必要不可欠なものですから、かなり過酷な行なんです。


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