26、定仁上人

長年金堂を預かり、同の裏をいつも掃き清めていた。
仏前に供養し、そのさまは、まことに立派で厳かだった。

常に地蔵尊を念じていて、
その大悲の誓願を絶やすことなく、
真言を唱えることも絶やさなかった。

菩薩の講式を読み上げ、
菩薩の功徳を称え上げた。
そうして休むことがなかった。

嘉応3年(1171年)の春、三月15日の夕方。
僧侶らを招いて、ひそかにこう言った。
「私は、今こそ娑婆世界を出て、安楽なるところへ赴こうと思う。
 皆様、それぞれ阿弥陀仏を念じて、
 善智識となってください。」
雲の如き大量の香華の供養をなし、
久しく生前の功徳を積んだ。
虚空には聖衆が満ち、
阿弥陀仏が来迎して極楽へと導いた。
「ああ、これで私の願いが叶った。」
僧侶らはみな、これを聞いた。
そして悲喜こもごもだった。
その後も、上人は、身じろぎもせずに安らかに滅した。


注記

1171
高野山の住侶。
俗姓は不明。
つねに菩提を慕っていた。
承安元年3月15日、端座念仏して入寂。
享年不明。


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