十巻章とは何か?   

 

 

目次
第1章       十巻章とは、大師の主著作群

  第1節       はじめに

  第2節       十巻章とは何か

第2章       十巻章の配列

  第1節       二通りの配列。

  第2節       勧学院の年序配文の次第

  第3節       内談義配文の次第

第3章       配列の意義

第4章       隆蓮房的十巻章の配列

 

 

第1章   十巻章とは、大師の主著作群

第1節              はじめに

密教大辞典より
ジウカンジョウ

真言宗の教義を示せる重要典籍にして祖師の先述せるもの七種十巻を指す。

弘法大師撰即身成仏義・声字実相義・吽字義各一巻・弁顕密二教論二巻・秘蔵宝鑰三巻・般若心経秘鍵一巻及び龍猛菩薩造発菩提心論一巻これなり。

享保17年刊・明治11年刊等版本数種あり。註書極めて多し。

・・・・ってあるんだけどね、この見出しが既に「ジウ(つ)クワンジヨウ」なわけです。

要するに、日本語の表記と発音が変遷しているということがよくわかります。

隆蓮房は最近、金田一春彦先生のファンなんですけど、彼は高野山に伝わるもの(特に声明)から日本語の変遷について研究を進めたようで、

そういったことを鑑みるに、卑浅な隆蓮房が、専門でない「素読」なんてものに手を染めていいのかどうか非常に迷う次第です。


しかしながら、「十巻章とは何か?」について知りたい在家の方は多く、またプロの端くれとしても興味のある方に門戸が開かれているべきだと思います。

つまり、誰かが曲がりなりにも導きをするべきだと。

ですから、隆蓮房、力不足とは言え高野山の僧籍を冠する以上、勉強不足の誹りは免れないとは思いますが、・・・・・それでも、あえて公開していきたいと思います。

・・・・・ですので、隆蓮房のスタンスとしては、尊敬する中川善教先生の路線に乗っ取りながらも平成における・・・・。「隆蓮房的十巻章」です。

その辺りをどうか踏まえたうえでご参照頂き、しかしながら誤りはひとえに隆蓮房個人の学力不足です。

決して高野山真言宗に関わりなきことです。誤りなどがありましたら、隆蓮房個人にどしどしご意見・お叱りお寄せくださいますように。

そうして有志の方々で、この「平成の十巻章プロジェクト」を進めてまいりましょう。
(すでにご助力くださっている有志の方々には、この場にて御礼申し上げます。どうもありがとう存じます。)

そして、我こそと思わん方は、どうぞこの「平成の十巻章プロジェクト」に名乗りを上げてくださいまし。

第2節              十巻章とは何か

元に戻します。


「十巻章」は、「十巻書」「十巻疏」と呼ぶことも。


六波羅蜜寺恵範集・東武謙順(1740〜1812)『諸宗章疏録 真言』下巻『般若心経秘鍵』一巻の下に、
「〔即聲吽二宝秘菩の〕六部九巻に、龍猛の『菩提心論』を加えて世に「十巻書」と号す。然るに「十巻書」の称、諸録及び古徳の鈔記に見えず。蓋し後世学者の称なり、或いは「十巻章」に作り、或いは「十巻疏」に作る。
つまり、「十巻章」という名称自体は、現在は定着しているものの、実はそんなに古いものではなさそうです。

七部十巻で十巻章です。
八万四千と言われる(じっさいにはそんなにないが)膨大な経典を読破するのは無理。


だからこそ、偉大なる我らが大師が咀嚼した密教の(つまり仏教の)エッセンスを、歯の生えない乳児が慈母の噛み砕いた食べ物を口移しに摂るように(漢語で何と言うんだっけ? 現代の育児では×なんだけどね)、十巻章入門といきましょう。


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第2章   十巻章の配列

第1節              二通りの配列。

その十巻章をどういう順番で学習するかには、二通りあります。
好き勝手に並べていいものではないんですね。
つまり、「勧学院バージョン」「内談義バージョン」です。(後述)

『初学暗誦要文』(これは、初学者が覚えるべく、短い詩の形で事教相の事柄をまとめてあるもの。「いい国作ろう鎌倉幕府」とか「水平リーベ僕の船」みたいなヤツです。日本人って昔からそういうの好きだったんですね。この本、面白いのでそのうちご紹介したいと思ってます。)にも「即聲吽二寶秘菩 寶三二二十巻書」とありますので、

やはり「内談義バージョン」です。
「『即身成仏義』『聲字実相義』『吽字義』『弁顕密二教論』『秘蔵宝鑰』『般若心経秘鍵』『菩提心論』、宝鑰は三巻 二教論は二巻で〔併せて〕十巻章」って意味ですね。

こうやってコンパクトに十巻章の中身と配列を覚えたわけです。

『紀伊続風土記』勧学院の学道法会の項にも、大疏・釈論と共に所談の本書として「内談義バージョン」が挙げられている。

冒頭に挙げた『密教大辞典』の解説も、この順番に拠っていることが分かる。

弘法大師全集系ではどうなっているのかというと、入手が容易なものに於いては巻数の関係なのかページの都合なのかバラバラと言ってよい状況です。

内容の浅深や成立年代なども考慮しているかと思いますが。

さて、全集系で一番権威があるものは、密教文化研究所編纂でプロジェクト発足時には十八大総本山が刊行会に名を連ねている『定本弘法大師全集』でしょう。

これが現在の定本の最新バージョンです。


これは弘法大師の真作を編纂したものですから、『菩提心論』は含まれませんが、第二巻が十巻章に相当し、配列は勧学院バージョンです。

中川先生の『十巻章』は内談義バージョンです。が、本文科文等はコーダイテキストに依っています。

そのコーダイ十巻章テキストは勧学院バージョンです。


第2節              勧学院の年序配文の次第

秘・即・聲・吽・二・寶・菩

第3節              内談義配文の次第

即・聲・吽・二・寶・秘・菩


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第3章   配列の意義

幕末、智山の学匠元瑜(げんゆ:1756~1826)の『即身成仏義講翼』によって、「内談義バージョン」の意義を説こう。

例によって隆蓮房的超訳ですんで、そこんところはヨロシク。
以下、超訳。

高祖弘法大師のお作りになった書で『十巻章』と呼ぶものは、即・聲・吽・二・寶・秘・菩という次第です。

正直、誰が並べたんだかわかんないんだけど。

或る人が言うには、


「これは高祖の自作だよ、だからその順番には深い意味があるんだよ。

つまりね、
『即身成仏義』は、これは真言宗の大要だから、当然初めに置くわけよ。

『聲字義』は、『即身義』のおおもとはその字輪(=マントラ)にあるので、〔マントラに関するものだから〕その次に置く。

〔マントラに関するものは二つあるんだけど〕『聲字義』は総論で、『吽字義』は別論なので、総論である『聲字義』の次に別論を解き明かすために『吽字義』を持ってくる。

『二教論』は、〔顕密〕二教の異を弁じて即身成仏の義赴を顕すので、次に置く。

『宝鑰』は十住心の次第浅深を判ずる大教相。

二教の異を論ずるのは何でかって言うと、〔顕教とは全く違う〕秘密荘厳即身成仏(=密教)の義を顕すためです。

『秘鍵』は一切衆教(=すべての教え)は元々真言門より出ていることを明らかにします。よって、〔顕教においても最もポピュラーである〕心経を解釈して密教〔の教えを説いた教であると〕とします。「医王の目には途に触れて皆薬なり」と。『秘鍵』というネーミングは、この文がキーワードなんですね。

さて、即身成仏はその要、菩提心にあります。ですから最後に龍樹の『菩提心論』を置く。すべてはこれに立ち帰るのです。ですから、『菩提心論』には言うじゃないですか、「唯真言法中即身成仏の故に是説三摩地法」って、ね。」


僕(=元瑜)もこの順番に並べた人、超スゴイって思います。




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第4章   隆蓮房的十巻章の配列

「隆蓮房的十巻章」はコーダイ出版部発行の『十巻章 全 改定版』を基準とします。

これがコーダイ十巻章講義のテキストになります。昭和
16年初版で、41年に改定され、私が持っているのは平成元年第五版です。

とはいえ、それから
20年以上経過しているので、今も同じテキストを使っているのかどうか定かではありません。

元々バラバラだったものを一冊にまとめた時に、どういう順序に並べるのかという問題が出てきますが、これは勧学院バージョンで纏められています。

そして、科文(段落分け)と四声点が振ってありますので、とても使いやすい。

まあ、そういう訳ですが、隆蓮房も「内談義バージョン」で行きます。
(中川善教先生も小田慈舟先生も「内談義バージョン」なので、問題ないっしょ?)

要するに、ミクロな視点からマクロへといきます。
そしてまた、マクロの中へ溶け込んでいきます。

真言宗の肝要は? 『即身成仏義』

   ↑

そもそも「真言」って? 「音」や「字」って何さ? ってことで 
『聲字実相義』  

   

もうちょい詳しくプリーズ ってことで『吽字義』

   

あれ? じゃあ顕教って密教とどこが違う訳? ってことで『二教論』


   

仏教の中で、いや、人の心の中で、仏教の各宗とか密教とかはどう位置づけられる?
 ってことで『秘蔵宝鑰』

   

その位置づけって実は『心経』の中に既に説かれているんだよね? ってことで『秘鍵』

   

初心に帰ってみよう。密教(いや、全仏教、いや、人間本来)の出発点の「菩提心」についてドウゾ。 ってことで『菩提心論』

 

・・・・と、こういう感じで。
いかがでしょうか?

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