6−3 般若心経秘鍵

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1序論

-1祈請の偈頌

-2仏法の大綱

-3心経の大意 二日

--1一経の鋼格

--2口々の深妙

--3得益の殊勝

-4造論の趣旨 三日

-5余義の問答

2本論

-1心経の題釈 四日

-2心経の要目

--1心経の説聴 五日

--2心経の翻訳

--3心経の顕密

-3心経の五分 六日

-4人法総通分

(因行證入時分)

(再説の偈頌)

-5分別諸乗分の一 七日

(無碍の建立)

(再説の偈頌)

-6分別諸乗分の二

(対立の絶離)

(再説の偈頌)

-7分別諸乗分の三

(諸法の相状) 八日

(再説の偈頌)

-8分別諸乗分の四

(声聞と縁覚)

(声聞の三昧)

-9分別諸乗分の五

(一道の妙旨)

(再説の偈頌)

-10行人得益分

(行人と得益) 九日

(再説の偈頌)

-11総帰持明分

(般若の持明)

(再説の偈頌)

-12秘蔵真言分

(秘蔵の真言)

(再説の偈頌)

-13問答決疑分

(真言の釈不) 十日

(顕教と密教)

-14讃嘆流通分

-15所謂上表文

初日

般若心秘鍵 序*〔〕せたり     照金剛撰

 

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1序論

-1祈請の偈頌


文殊の利は諸

母の梵文は調御の師なり

チクマンの言を種子とす

諸教を含せる羅尼なり

の生死何んが能く

那と正思惟のみ有ってす

者の三は仁らず

我れ今讃述す哀悲を垂れたまえ[i]

 


 

 

-2仏法の大綱

夫れに非らず、心中にしてち近し。

如外に非らず、身を棄てて何くんか求めん。

悟我れに在れば心すれば即至る。

明暗他に非ざれば信修すれば忽に證ず。

哀れなる哉哀れなる哉長眠の子、苦しい哉痛い哉狂の人、
痛狂はわざるを笑い、酷睡は者を嘲る。

曾て王の薬訪わずんば、何れの時にか大日の光を見ん。

翳障の重、悟の速の若くに至っては、
機根不同にして性欲即ち異なり。

じて二教轍を殊んじて手を金の場に分ち、
五乗*〔金+鹿〕をべて蹄を幻影の埒に*〔あしへん+宛〕つ。

其の解に隨うてを得ることち別なり。

父導子の方大鋼此れに在り。

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-3心経の大意 二日

--1一経の鋼格 

大般若波羅密多心といっぱ、
ち是れ大般若菩の大心真言三摩地法門なり。

は一紙に欠けて行は則ち十四なり。

謂うべし簡にして要なり約やかにして深し。

の般若は一句に*〔口+兼〕んで飽かず、
七宗の行果は一行に*〔又+又+又+又+酉+欠〕んで足らず。

--2口々の深妙

*〔土+垂〕は則ち諸乗の行人を挙げ、

度苦涅槃は則ち諸教の得を*〔寒−ニスイ+衣」〕ぐ。

五蘊は横に境を指し、三仏は竪に悟心を示す。

色空と言えば則ち普賢頤を融の義に解き、
不生と談ずれば則ち文殊顔を絶に破る。

之れを識界にけば簡持手を拍ち、
之れを境智に泯ずれば一心を快くす。

十二因縁は生滅を麟角に指し、
四諦法輪は苦空を羊車に驚かす。

況んや復たギャテイの二字は諸蔵の行果を呑み、
ハラソウの両言は密の法を孕めり。

一一の字は歴劫の談にもきず、
一一の名は塵滴のも極めたまうこと無し。

--3得益の殊勝

是の故に誦持講供すれば則ち苦をえ、
修習思惟すれば則ちを得を起こす。

甚深の誠に宜しく然る可し。

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-4造論の趣旨 三日

余、童をうるの次に、聊か鋼要を撮って彼の五分をす。

家多しと雖も未だ此の幽を釣らず。

訳の同異、密の差別びに後にするが如し。

1-  5余義の問答


或が問って云く、般若は第二未了のなり、何ぞ能く三を呑まん。

 

法は一字に五の義を含み、一念に三の法をく。

何に況んや一部一品、何ぞ匱しく何ぞ無からん。

亀卦・爻・*〔くさかんむり+老+日〕象を含んでること無く、帝網・義を呑んで窮まらず。

 



の日く、若し然らば前の法匠何ぞ斯の言を吐かざる。

 


答、聖人のを投ぐること機の深に隨い、賢説黙は時を待ち人を待つ。

吾れ未だ知らず、
蓋し言うべきを言わざるか、言うまじければ言わざるか、言うまじきを之れを言えらん。

失、智人りたまえ而已。

 

 

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2本論

-1心経の題釈 四日

仏説摩訶般若波羅蜜多心といっぱ、此の題額に就て二つの別有り、
別なるが故に。

 

仏説摩訶般若波羅蜜多心と謂っぱ胡雜え挙げたり。

の三字は名、の九字は胡なり。

若し具なる梵名ならば、
ボダハシャマカハラジャハラミタカリダソタランと曰うべし。

初の二字は満覚の名、
次の二字は密を開悟し甘露を施すなり。

次の二字は大多勝に就いて義を立つ。

次の二字は定慧に約して名を樹つ。

次の三つは作已に就いて号とす。

次の二つは中に據つて義を表す。

次の二つは貫線摂持等を以て字をわす。

若し総の義を以てかば皆人法喩を具す。

斯れ則ち大般若波羅蜜多菩の名なり。

ち是れ人なり。

此の菩に法曼荼羅言三地門を具す。

一一の字はち法なり。

此の一一の名は皆世間の名を以て、法性の深号を表わす。

ち是れ喩なり。


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-2心経の要目

--1心経の説聴 五日

此の三地門は仏鷲峯山に在して*〔秋+鳥〕子等のに之れをいたまえり。

--2心経の翻訳

此の翻訳あり。

第一に羅什三の訳、今の所説の本是れなり。

次に唐の覚三には題に仏説摩訶の四字無し。

五蘊の下に等の字を加え、離の下に一切の字を除く、羅尼の後に功能無し。

次に大周の義の本には題に訶の字を省き、言の後に功能を加えたり。

又法月及び般若三蔵のにはびに序文流有り。

--3心経の顕密

羅尼集の第三のに此の言法を説けり。

の題羅什と同じ。

般若心といっぱ、此の菩に身心等の羅尼有り、
是の言は即ち大心咒なり、
此の心真言に依つて般若の名を得。


或が云く、大般若の心要を略出するが故に心と名づく、
是れ別にあらずと。云云。


謂龍にの鱗有るが如し。


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-3心経の五分 六日

此のじて五分有り。

第一に人法通分、自在というより度一切苦厄に至るまで是れなり。

第二に分別諸乗分、色不異空というより無得故に至るまで是れなり。

第三に行人得益分、菩提*〔土+垂〕というより三藐三菩提に至るまで是れなり。

第四に総帰持明分、故知般若というより真実に至るまで是れなり。

第五に秘蔵真言分、ギャテイギャテイというよりソワカに至るまで是れなり。


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-4人法総通分

(因行證入時分)

第一の人法通分に五つ有り、因行證入時是れなり。

自在と言っぱ能行の人、ち此の人は本の菩提を因とす。

深般若は能所の法、ち是れ行なり。

照空は則ち能證の智、度苦は則ち得の果、果はち人なり。

彼のに依る人の智無量なり、
智の差別に依て時亦多し三生・三劫・六十・百・妄執の差別是れを時と名づく。

頌に日く、

(再説の偈頌)


 人、智を修して

 深く五衆の空を照らす

 劫修念の

 煩を離れて一心に

 

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-5分別諸乗分の一 七日

第二の分別諸乗分に亦五つあり、建相二一是れなり。[ii]

(無碍の建立)

初めに建といっぱ、謂わゆる建立如の三地門是れなり。

色不異空というより亦復如是に至るまで是れなり。

建立如といっぱ、ち普賢菩の秘号なり。

普賢の因は融の三法を以て宗とす。

故に以て之に名づく。

又是れ一切如菩提心行願の身なり。

頌に日く、

(再説の偈頌)

 
 色空本より不二なり

 事理元よりた同なり

 無礙に三種を融ず

 金水の喩其の宗なり

 


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-6分別諸乗分の二

(対立の絶離)

二つにといっぱ、謂わゆる無論如の三地門是れなり。

法空相というより不不減に至るまで是れなり。

論如と言っぱち文殊菩の密号なり。

文殊の利は能く八不を揮って彼の妾執の心をつ。

是の故に以て名づく。

頌に日く、

(再説の偈頌)

八不に諸戯

 文殊は是れ彼の人なり

 空畢竟の理

 義用最も幽なり。

 



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-7分別諸乗分の三

(諸法の相状) 八日

三つに相といっぱ、謂わゆる多羅冐地怛*〔口+縛〕の三地門是れなり。

是故空中無色というより無意識界に至るまで是れなり。

大慈三味は与楽を以て宗とし、因果を示して誡とす。

相性別論し唯識境をす。

心只此れに在り。頌に日く、

(再説の偈頌)

二我何れの時にかつ 

三祇に法身を證ず

は是れ識性なり 

幻影は即ち名賓なり

 


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-8分別諸乗分の四

(声聞と縁覚)

四つに二といっぱ、唯蘊無我業因種是れなり。

是れち二の三地門なり。

(縁覚の三昧)

無無明というより無老死に至るまで、ち是れ因縁の三味なり。

頌に日く、


  風葉に因縁を知る

 輪廻幾の年にか

 露花に種子を除く

 羊鹿のれり

 

 

(声聞の三昧)

無苦集滅此れ是の一句五字は、ち依の三味なり。

頌に日く、

 
  白骨に我何んか在る

 *〔やまいだれ+於〕に人本より無し

 吾が師は是れ四念なり

 羅亦何んぞ虞しまん

 


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-9分別諸乗分の五

(一道の妙旨)

五つに一といっぱ、阿哩也*〔口+縛〕路枳帝冐地怛*〔口+縛〕の三摩地門なり。

無智というより無得故に至るまで是れなり。

此の得自性清浄は、一道清浄不染を以て衆生に開示して其の苦厄をく。

智は能げ得は證に名づく。

に理智を泯ずればちに一の名を以てす。

法華・涅槃等の本の唯此の十字に含めり。

諸乗の差別、智者之れを察せよ。

頌に日く、

(再説の偈頌)

 


 じて自を知り

 菓を見て心

 一に能を泯ずれば

 三車ち帰

 

 
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-10行人得益分

(行人と得益) 九日

第三の行人得益分に二有り。

人法是れなり。

初の人に七有り。

前の六後の一つなり。

の差別に隨つて*〔土+垂〕に異有るが故に。

*〔土+垂〕に四つあり。

愚識金智是れなり。次に又法に四つあり、謂わく因行證入なり。

般若はち能因能行、無碍離障はち入涅槃、能證の智はち證果なり。

文の如く思知せよ。

頌に日く、

(再説の偈頌)

 


 行人のは是れ七つ

 重二彼の法なり

 寂と菩提と

 正依何事か乏しからん

 

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-11総帰持明分

(般若の持明)

第四の総帰持明分に又三つあり、名用なり。

四種の咒明は名をげ、
真実を指し、
能除苦は用をわす。

名をぐる中に、
初の是大咒は聞の言、
二は縁言、
三は大言、
四は秘の真言なり。

若しの義を以ていわば、一一の言に皆四名を具す。

略して一隅を示す、智の人、三即帰一せよ。

頌に日く、

(再説の偈頌)

 


 持に文義あり

 忍咒悉く持明なり

 字と人法と

 相とに此の名を具す

 


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-12秘蔵真言分

(秘蔵の真言)

第五に秘蔵真言分に五つ有り。

初のギャテイは聞の行果をわし、
二のギャテイは縁の行果をげ、
三のハラギャテイは最勝の行果を指し、
四のハラソウギャテイは言曼荼羅具足輪の行果を明し、
五のボウジソワカは上の諸乗究竟菩證入の義をく、句義是の如し。

若し字相義等に約して之れをせば、無量の人法等の義有り。

劫をてもし。

若し要聞の者は法に依って更に問え。

頌に日く、

(再説の偈頌)

 


 言は不思議なり

 誦すれば無明を除く

 一字に千理を含み

 身に法如を證ず


行行として寂に至り

 去去として原初に入る

 三界は客舎の如し

 一心は是れ本居なり[iii]

 

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-13問答決疑分

(真言の釈不) 十日

問う、羅尼は是れ如の秘密語なり。

以に古の三の疏家、皆口を閉じ筆[iv]つ。

今此のを作る、深く聖旨に背けり。


法に二種有り。

一つには、二つには秘。

機のには多名句をき、秘根のには持の字をく。

是の故に、如自らア字オン字等の種種の義をいたまえり。

是れ則ち秘機のに此のを作す。

龍猛・無畏・智等も亦其の義をいたまう。

能不の間機に在り耳。

之れをき之をする、びに意に契えり。

(顕教と密教)


問う、密二其の旨天に懸なり。

今此の顕経の中に秘義をく不可なり。

 


王の目にはれて皆薬り。

の人は石を宝と見る。

知ると知らざると何誰が罪過そ[v]

又此の言・儀軌・法は、金剛頂の中にいたまえり。

此れ秘が中の極秘なり。

化の迦は給孤園に在して、
・天人の像・壇法・言・手印等をいたもう、
亦是れ秘密なり。

羅尼集の第三の是れなり。

密は人に在り、字はち非なり。

然れども猶が中の秘、秘が中の極秘なり。

深重重耳[vi]

 


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-14讃嘆流通分


我れ秘密言の義に依つて

略して心経五分の文を

一字一文、法界に

無終無始にして我が心分なり

翳眼の衆生は盲いて見ず

曼儒般若は能く紛を解く

斯の甘露を灑いで迷者を霑す

同じく無明をじて軍を破せん

 

 

般若心秘鍵


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-15所謂上表文

時に弘仁九年の春天下大疫す。

に帝皇自ら金を筆端に染め、紺紙を爪掌に握って、般若心を書し奉りたもう。予講の撰に範て旨を綴る。

未だ結願の詞を吐かざるに蘇生の族に*〔一+丁〕む。

夜変じて日光赫赫たり。

是れ愚身が戒に非ず、金輪御信力の所為なり。

但し舎に詣せん輩此の秘鍵を誦じ奉るべし。

昔予鷲峯法の莚に陪って、親り是の深文を聞きき、豈其の義にせざらんや而已[vii]

入唐沙門空上表

 

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隆蓮房注

中川テクストをほぼまる写し。

凡例参照のこと。



[i] 冒頭と文末の頌のみ二句を一行*4。他の頌は四句一頌なのだが、三句+一句と二行に分かち書きされている。
見難いので、すべて一句一行に配当した。

[ii] この一文のみ独立しているのは何故?
他の科文においては独立せずに、続く文章と共に一つ下のレベルの冒頭に来る。
他の科文もこのように独立させるようにした方がいいかもしれないが、課題として残しておく。

[iii] 四偈一頌*2

[iv] 「ふんで」と発音。語呂がいいですね。

[v] これ、清音なのね。古風でいいわあ(勝手な感想)。

[vi] 「まくのみ」。「耳」は「のみ」だが、「まく」って何?

[vii] 「まくのみ」。この最終文末に読点なし。

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